鳥肌レトルト君のカレーなる挑戦



カレーがオレに挑戦してきた。レトルトのやつだ。
近くのスーパーで買い物をしている時、カレーが並んでいる棚を通りかかった。

そういや、いまレトルトカレーってのはどんなやつがあるんだ・・?
立ち止まって眺めていると「鳥肌の立つカレー」と書いてあるパッケージがある。
「なんだってえ?・・鳥肌ですかい、チキンカレーだからかね・・」
とかなんとか想いながらそいつを手に取った。

え?なになに、「何度食べても肌が粟立つほどの感動の逸品」だと?
「カレー専門店の味を超えるレトルトカレーが可能であることを証明してみたかった」だってえ・・!?

美味くて鳥肌が立つなんてえことは尋常なことじゃねえですよ。
オメエ、まさか・・挑戦してんのか?オレ様に?ああっ?!
インドカレー大好き歴ウン十年のこのオレ様に向かってここまで大胆不敵に言ってのけるとは良い度胸してんじゃねえか・・。

おおーし、わかった!こんだけのこと言ってるだけでもホメてやるぜ。
この自らハードル上げまくりの大口タタキだけでもホメてやる。
オーケー、この挑戦受けて立とうじゃねえか。
どっからでもカカッてこいや~、このトリハダやろ~めが!

・・ってえことで挑みかかってくるこいつをカゴに入れ“挑戦受付料”数百円をレジで支払い家に持ち帰った。

そらまあ言ったもん勝ちみたいな世の中、嘘も100回つけばホントになる・・てな娑婆世界ってことは重々承知してるオレだ。これだけ派手にスゴイこと書いとけば最低一回は売れるんじゃねえか・・というような商法かもしんねえな・・というウタガイはハナからある。いや、ほとんどそんなようなもんだろう・・。

しかし、もしかしてホントに美味くてトリハダが立ったらどうしよう、しかもレトルトで・・そうだとしたらすごいことだし、かなり嬉しい出来事だ・・とホノカに期待する気持ちもカスカにある・・というのはカレー大好き人間ゆえの貪欲、BONNO~というものなのか。

果たしてこの「鳥肌の立つカレー」の果敢なる挑戦はいかに?
相手は世の中の美味いインドカレーを悉く味わってきた大巨人であ~る。その立ちはだかる巨大な壁を打ち砕くことが・・いや、その身体にトリハダを立てることができるのだらうか?

パッケージを開けると中袋パウチが出てきた。
ここにも書いてある・・「美味しさのあまり鳥肌の立つ本格インドカレー」
ほほう、中袋であってさえも声を大にして宣言している。
中袋パウチ・・そうだ、これはこの挑戦を受け入れた者にしか見ることのできない領域であるのだ。
しかも“本格インドカレー”と言うことによって、世界王者であるオレ様の最も得意とする分野に挑んでいるということを殊更強調し、挑発している。

このパウチに書かれたダメ押し的な宣言の意味するところは?
可能性は二つある。
ひとつは調理して(もちろんレトルトなので湯煎するだけだが)パウチを開ける直前まで過剰な美辞麗句のエナジーを使い相手の味覚を司る脳みそに幻想ダメージを与え、美味いと思わせてしまうというマインドコントロール的なフェイク戦術。
二つ目は挑戦者の心底から発するホンモノの自信。決して大言壮語ではない、これはめっちゃホントに美味いのだという真実の叫びのようなもの・・。
う~む、だとすればワザワザ中袋にここまで書く必要はないのだらうが・・。

いずれにせよホントのことは試合が終われば判ることだ。要はこれを食べたチャンピオンの身体に美味さのの感動で鳥肌が立つのか否かなのだ。

挑戦者の申し出どおり5分温めたそれをナベからつまみ上げパウチ上部の端にある切り込みに手をかけ一気にピューっと開ける。
ちょっと斜めに傾いていたので飛び出したルーがパウチをつまんでいる左の親指にかかった。「アチッ!」
油断もスキもない、しかしながらこれは南インドのカレーのようにネバリがないシャバシャバなスープ状のものゆえの“飛び出し”であることが判る。かなり挑戦者をナメて試合に臨んでいる王者に軽くジャブを打ってきたのか。
「ナメてんじゃねえぞ、ナメんならお前の指でもナメておけ」と熱せられたルウの一部を浴びせかけてきたのだらうか。

ライスの盛られた皿にその全部を注ぎ、湯気がふわーっと立ち上りカレーの香りがあたりに漂った。

そして・・・
試合は終わった。
王者がカレーとライスをスプーンで口に入れた瞬間・・試合はあっという間に終わってしまったのだった。
ザンネンながら若き挑戦者は為す術もなくノックアウトされた。
その挑戦は一秒ももたずに退けられた。
トリハダは立った・・あまりのオソマツさにトリハダは立った・・。

この試合、ボクシングなら試合開始のゴングが鳴った瞬間にチャンピオンのストレートが顔面にヒットして、あっという間のノックアウト。
野球なら一回表に打者3巡くらいして30点入っちゃった感じ。
サッカーなら開始5分の間に10ゴール入っちゃったみたいな・・
殆ど試合にならないやつ。観客が金返せ~っとかブーイングするだろな的なやつなのだった。

ただ辛いだけ、風味も何もない。少しの油っこさ・・王者の腹が減っていたというアドバンテージも活かすことのできないまま、挑戦者は一瞬にしてノビてしまった。

オレも微かとはいえ期待もあったのだよ〜ん。
もうちょい試合を楽しませてくれよ~的な想いも入り混じり、ちょびっとだけ悲しくなった・・。
あっけなく終わった試合後のココロに去来する想いには、少しだけスパイスが効いていた・・なんつって。













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